医療法人の役員は、理事と監事で構成されており、理事の中から理事長を選任するということになっています。
そして、各役員には法律で任期の上限が定められていて、その任期の上限よりも長く職務を継続できません。
しかし、再任することは問題無いとされているので、任期満了後も職務を継続するためには、再任(重任)の手続をすることになります。
今回は、医療法人の各役員の重任手続について、解説をいたします。
- 医療法人の理事長、理事、監事を務めている
- 任期満了後も引続き役職を全うしたい
医療法人の役員の任期
医療法人社団は、その法人を運営するための機関として社員総会、理事、理事会、監事を置かなければならないとされており(医療法第46条の2第1項)、役員として理事を3人以上、監事を1人以上置かなければなりません(医療法第46条の5第1項)。
そして、役員の任期は、2年を超えることはできないと定められております(医療法第46条の5第9項)。
理事長については、医療法人の理事のうち1人は理事長とすることとされているので(医療法第46条の6第1項)、理事長であるためには前提として理事である必要があり、理事長の任期についてもヒラ理事と同じく2年を超えることはできません。
株式会社や一般社団法人の役員の任期は、選任後○年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主(社員)総会の終結の時まで、という規定がありますが、医療法の場合は明確に2年を超えることはできない、とされているので、それを踏まえた上で任期の管理をする必要があります。
任期満了後も役員を続ける方法
医療法の第46条の5第9項では、役員任期は2年を超えることはできないが、再任を妨げない、と規定しています。
再任を妨げない、の意味としては、医療法人は最長2年で役員の任期が切れるところ、同一人物が次の任期の間も、役員の職務を務めることができる、という意味です。
医療法人社団の役員が、その任期満了後に再任して役員の職務を続ける場合には、任期満了前に開催される社員総会の決議によって再任される必要があります(医療法第46条の5第2項)。
先に確認したように、医療法人の役員任期は2年が上限なので、任期満了後の開催された社員総会で役員として選任されたとしても、任期満了で一度退任し、その後新しく選任されたという扱いになるため、再任したい場合には期日管理には十分注意してください。
任期満了後の重任手続
医療法人の役員が重任する際の手続については、理事長職と理事・監事職とで分けて考える必要があります。
理事長を重任する場合であっても、医療法の前提として理事職に就いている必要があるため、理事・監事の重任手続をまずは行います。
理事・監事の重任手続
医療法人社団の役員は、社員総会の決議で選任することになるため、現在の役員の任期が切れる前に社員総会を開催し、現在の役員の任期満了後に役員に就任すべき人を選任します。
この、任期満了前に次の役員を予め選任することを、予選といいます。
多くの医療法人では、役員の任期満了日と決算日が同じになるように調節しており、かつ定款では決算月(予算・事業計画承認)と決算月から2か月後の月(決算・事業報告承認)に定時社員総会を開催することとしている場合が多いので、一般的には決算月の予算・事業計画承認をする定時社員総会で、併せて役員の予選を行います。
定時社員総会で次期役員の選任を行い、選任された次期役員が承諾をすることで、効力発生日からは新役員としての職務を務めることになります。
理事長の重任手続
理事長は、医療法人の理事のうち1人は理事長とすることが定められているため、理事長として重任する際も、まずは任期満了前の社員総会で、理事として重任される必要があります。
また、理事長の選出をすることができる権限は理事会にあるため(医療法第46条の7第2項第3号)、理事会においても理事長として再選出される必要があります。
このときに、改選前の理事と改選後の理事で構成員に変更があるかないかで、少しだけ手順が変わってきます。
理事の構成員に変更がない場合
上記のように理事の構成員に変更がなく、任期満了後の新役員も同じ顔ぶれの場合、社員総会での役員の予選に加えて、理事会でも理事長の予選をすることが可能です。
具体的には、3月31日が任期満了の場合、それよりも前の日(たとえば3月20日)に社員総会を開催して任期満了後の役員の予選(重任)をして、その直後に理事会を開催して理事長の選出(重任)をすることができるのです。
理事の構成員に変更がある場合
上記のように理事の構成員に変更がある場合、理事会で理事長の予選をすることはできません。
理事長は理事の中から選出する必要があるところ、理事の構成員が変わってしまう場合で理事会での予選を認めてしまうと、新しい理事会としての意見が反映されないため、このような結論となっています。
この場合には、社員総会で役員の予選をすることができることに変わりはないので、予め社員総会で任期満了後の理事を選任し、旧役員の任期満了日の翌日(上記事例だと4月1日)に新役員構成での理事会を開催し、理事長を選出する必要があります。
任期満了日の翌日に理事会を開催できない場合、旧理事長の任期自体は延長することができませんが、新役員構成での理事会を開催して理事長の選出をするまで、旧理事長はなお役員としての権利義務を有することとされています(医療法第46条の6の2第3項、第46条の5の3第1項)。
ただ、この場合でも一度任期は切れてしまっているので、同じ人が理事長に再任したとしても、法律上の扱いは再任(重任)とはならず、退任→新規就任という扱いになってしまいます。
重任か、退任→就任かの違いは、行政への手続をする際などに必要書類という形で大きく関わってきますので、事前に役員構成が変わることが分かっている場合は、任期満了日翌日に新役員構成での理事会を開催できるように段取りをしておくべきでしょう。
役員変更届の提出(都道府県の医療法人管轄部署)
役員の就任、退任、辞任、重任などが発生した場合は、都道府県の医療法人管轄部署へ、役員変更届を提出する必要があります(医療法施行令第5条の13)。
届出に必要な書類は各都道府県によって異なることもあるので、各担当部署へ事前に確認することをオススメいたします。
一般的には、社員総会議事録と理事会議事録が必要で、自治体によっては役員名簿、履歴書などの提出を求められることがあるようです。
理事長の重任登記(主たる事務所を管轄する法務局)
医療法人は、代表権のあるものの氏名、住所、資格について登記が必要と定めており(組合等登記令第2条第2項第4号)、この登記事項に変更があった場合は、2週間以内に変更の登記をすることとされています(組合等登記令第3条第1項)。
理事長は医療法人の代表権のあるものなので、その氏名、住所、資格(理事長の役職を指します)については、登記事項です。
そして、登記申請では登記原因となる事項の発生した年月日を記載するので、役員の就任や重任といった日付も登記されます。
理事長が重任する場合、氏名も住所も資格も変わらないので登記が必要ないように思えますが、法律上は最長2年の任期を終えて、再任することになるので、そのことを明確に示すために重任の登記をする必要があります。。
このときに登記原因となる重任の発生した年月日は、旧役員の任期満了日の翌日となります。
上記3月31日が任期満了日の事例を出すと、4月1日に重任したとして、2週間以内に登記をすることになります。
なお、2週間の考え方について、医療法人の役員任期はぴったり2年なので、上記の事例だと4月1日の0時00分から任期が始まることになります。
民法140条では、期間の起算方法について
日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
と定めています。
この「期間の初日は、算入しない」という原則を初日不算入の原則といいます。
つまり、医療法人の役員任期は午前零時から始まるため、初日不算入の原則が適用されず、4月1日の重任日から起算して2週間、4月14日までに重任の登記申請をする必要があるということになります。
重任登記に必要な書類は、
- 社員総会議事録
- 理事会議事録
- 就任承諾書
- 印鑑証明書
- 理事長の医師免許証の写し
となります。
このうち、就任承諾書は社員総会、理事会で席上承諾をしており、その内容が議事録に記載されていれば省略可能です。
印鑑証明書は、理事会議事録に、理事長が登記所に提出している印鑑を捺印することで省略可能です。
登記所提出印を捺印しない場合は、理事会議事録に、全ての役員が個人の実印を捺印し、全役員の印鑑証明書が必要となります。
登記事項変更登記完了届の提出(都道府県の医療法人管轄部署)
医療法人の登記事項について、登記をした際にはその登記事項と登記の年月日を、都道府県の医療法人管轄部署に届け出る必要があります(医療法施行令第5条の12)。
届出には、登記した内容が分かる登記簿謄本の原本を添付します。
行政書士TLA観光法務オフィスでは、医療法人やクリニックに関するお手続のサポートをしております。
医療法人は医療法で様々な制約を課されており、かなり細かい法律の知識が必要です。
役員の重任は、事前の段取りが重要です。
気付いたら、やるべき手続が漏れていた、日付が過ぎていた、ということもございます。
そうしたミスを減らしていくためにも、手続のお困りごとやお悩み事は、ぜひ一度私どもにお話をお聞かせください。
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